二つの天然記念物のフジ❕❕ ~優美な藤棚と野生の生命力~

フジの名前が日本の歴史で最初に登場するのは「古事記」で、古くから日本の歴史と深く関わってきた花である。フジは高貴な花というイメージがあり、栄華を誇った平安時代の藤原氏につながる花でもある。

又、昔からフジは寿命が長く繫殖力も強いことから御目出度い植物とされ人々に親しまれて来た。花房は優雅に垂れて芳香を放し、風に揺れる姿は藤波と呼ばれる。

蔓は縄の役目を果たし籠の材料として利用されてきた。繊維は「藤衣=ふじごろも」と言って着物の貴重な材料となった。そして、垂れ下がる長い花房は「稲の穂」を連想させ豊作を表した。

フジの種類には「ノダフジ」と「ヤマフジ」がある。ノダフジは大阪府福島区野田が原生地でこの名が付いた。蔓は右巻きで花房は長く大きいものは約1m程になり、花房の元から先端へ順に花が咲いていく。ヤマフジは主に西日本の山地に生え、蔓は左巻きであり、花房は約30㎝と短く花はほぼ同時に咲く。

☆フジのこぼれ話

・フジの別名は「ニ季草=ふたきぐさ」という。理由は春と夏の二つの季節の間に花が咲くため。

・2024年に発行される新五千札の裏面はノダフジが採用されることになった。

多摩地区には、東京都指定天然記念物として「拝島のフジ」と「大久野のフジ」の二つがある。

〇拝島のフジ

樹齢800年と言われ、別名「千歳のフジ」と呼ばれている。根元の周囲は約3mあり藤棚は高さ約2.5m、広さは約310㎡ある。現在の藤棚は多摩川に架かる拝島橋開通を記念して1995年に設置されたという。

この藤棚は二種類のフジが絡み合っている。花房の長いノダフジと花房の短いヤマフジからできている。鑑賞の際にはこの違いをゆっくりと見比べると面白い。

この拝島のフジは一時、花が咲かない年があったとのこと。地域住民、造園業者、市の3者が「フジの花を咲かせる会」を組織して土壌改良、剪定を施し復活に成功したという。

〇大久野のフジ

日の出町大久野に自生するフジで樹齢約400年、幹回り約3m、高さ約30mもあり、丘の上から見下ろすフジである。

藤棚は無く野性味溢れるフジである。蔓は四方八方に伸び、日光を好む好日性の植物なので上へ上へと伸びてフジの生命力を感じさせる。

もう一つの見どころは根元である。蔓とは思えない太さでアラカシ・スギの大木に絡み、大蛇のように荒々しく巻き付きフジの野生の力強さを感じさせる。

展望地の丘からは日の出町の街並みも一望でき、山肌はサクラからフジへと花のリレーが進んでいた。