今回以降、数回に分けて多摩地域にある「記念碑」について見ていきます。
国土地理院の地図では「記念碑」は次の記号で表示されています。
石碑をデザインしていることがわかります。
また、地図記号には「自然災害伝承碑」という類似の記号もあります。
平成30年7月豪雨(*)を機に制定された新しい記号で、次のような形状です。
記念碑の表面に何やら刻み込まれているようなデザインです。
(*)平成30年6月28日から7月8日まで西日本を中心に全国規模で発生した大雨で、死者224名を出す大災害となったのですが、多くの犠牲者を出した地区において、100年以上前に起きた水害を伝える石碑があったものの、「石碑があるのは知っていたが、関心を持って碑文を読んでいなかった。水害について深く考えたことはなかった」という住民の声が聞かれたことから、これら自然災害伝承碑を防災の観点で地図上に明示することになったものです。
国土地理院のサイトに記されている「記念碑」の説明は次のようになっています。
記念碑の記号は、立像を含めた有名なものを表示しています。良い目標となるものは有名でなくても表示します。
特に有名なものにはその名前もいっしょに表示しています。
この記号は、石でできた記念碑を前から見た形とその影の形を記号にしました。
したがって、記念碑の類はすべて表示されているわけではなく、また選定するにしても統一的客観的な基準があるわけでなく、「有名なもの」という主観的要素の多い基準で選定されています。地図作成時にそのエリアの調査官(測量官)の判断によって選ばれたようです。
なお、国土地理院に確認したところ、地図上に表示されている記念碑の台帳はない、とのことでした。
ですから、その全貌を知ろうとすれば、自分の足で調べることになり、今回の調査は多摩地域に点在する記念碑を一つ一つ訪ね歩いた結果をまとめたものになります。
まずは、具体的な記念碑の例を地図とともに示します。
(東村山停車場之碑-東村山市)
次いで、記念碑として表示されている立像です。多摩地域では立像はこの1点だけでした。
(菅原道真像-八王子市)
「自然災害伝承碑」は、次のように説明されています。
過去に発生した津波、洪水、火山災害、土砂災害等の自然災害に係る事柄(災害の様相や被害の状況など)が記載されている石碑やモニュメント。
自然災害伝承碑については、2020年以降に自治体から申請のあったものを順次地図上に表示しており、表示されている全てを国土地理院のサイトで市区町村別に一覧できますのでこれを台帳とみることができます。
次が自然災害伝承碑の例です。
(多摩川決壊の碑-狛江市)
なお、このブログでは、ここからは、「記念碑」と「自然災害伝承碑」をまとめて、「記念碑」として述べていきます。
多摩地域の「記念碑」の数
国土地理院の地形図上で数えると、多摩地域には「記念碑」は128件あります。(数え洩れがあるかもわかりません。)
地図上で示すと次のように分布しています。
ただし、地図上で数えると128件あるのですが、それらを訪ね歩いた結果、5件は現地で発見できず、確認できたものは123件にとどまりました。
発見できなかった記念碑は次の5件です。
(筆者が見落としているだけで、実際に存在しているものがあれば、ご教示いただけるとありがたいです。)
あきる野市「瀬音の湯」付近。
瀬音の湯関係者に聞いたところ、それらしきものは見当たらないとのこと。また、あきる野市・五日市郷土館に聞いたところ、以前そこには寺があったようなのでその関連のものではないか、と言われた。
八王子市「多摩少年院」敷地内。発見できなかったというよりも、記念碑らしきものを遠望できるが、それの建っている少年院内に立ち入ることができず詳しい確認ができなかったもの。
日野市「多摩動物園」内(?)。その付近には猛獣舎があって一般人の立入りが禁じられている。
東村山市「小平霊園」内。どうも撤去されたらしい。ただ、霊園管理者に聞くとそこにあったものは「給水塔」(噴水?)のようなものであったとのこと。
東大和市「多摩湖自転車道」脇。東大和市郷土博物館に問い合わせたところ、記念碑らしきものの存在は今も昔も不明との回答でした。
さらに記念碑の存在を確認できても碑文が判読できなかったり、設置場所の関係で裏面を全く見ることができず、どのような記念碑であるのか不明なものが数件ありました。
記念碑の市町村別分布
多摩地域の市町村別にみると次のように分布しています。
市町村 | 地図上の件数 | うち発見できなかった件数 |
---|---|---|
武蔵野市 | 0 | |
三鷹市 | 1 | |
小金井市 | 1 | |
国立市 | 1 | |
国分寺市 | 1 | |
府中市 | 4 | |
調布市 | 1 | |
狛江市 | 1 | |
昭島市 | 0 | |
青梅市 | 22 | |
羽村市 | 1 | |
福生市 | 2 | |
あきる野市 | 6 | 1 |
瑞穂町 | 2 | |
日の出町 | 2 | |
檜原村 | 3 | |
奥多摩町 | 4 | |
八王子市 | 37 | 1 |
日野市 | 11 | 1 |
町田市 | 7 | |
多摩市 | 4 | |
稲城市 | 2 | |
立川市 | 2 | |
小平市 | 0 | |
東村山市 | 5 | 1 |
東大和市 | 4 | 1 |
清瀬市 | 0 | |
東久留米市 | 0 | |
武蔵村山市 | 3 | |
西東京市 | 1 | |
計 | 128 | 5 |
ざっと眺めてみると、八王子市37件、青梅市22件というように、古い歴史のある地域に多く分布していることがうかがえます。
記念碑の種類別件数
記念碑の種類別件数をみると次のようになっています。
記念碑の種類 | 件数 |
---|---|
工事竣工記念碑 | 24 |
慰霊塔 | 17 |
頌徳碑 | 12 |
戦役記念碑 | 11 |
歌碑 | 10 |
史跡 | 7 |
御立野記念碑 | 5 |
自然災害伝承碑 | 4 |
開設記念碑 | 3 |
大典記念碑 | 2 |
その他(判読困難を含む) | 28 |
計 | 123 |
記念碑の種類区分は筆者による分類ですが次のように分類しています。(それぞれ1例ずつ画像を付けます)
■工事竣工記念碑は、道路、橋梁の新設や土地区画整理事業の完成などの記念碑。
萬年橋碑 (青梅市畑中)
■慰霊塔は、西南戦争、日清、日露戦争からはじまり第二次世界大戦までの戦没者にかかる慰霊塔、および大規模工事における殉職者の慰霊塔。
殉国慰霊塔(瑞穂町箱根ヶ崎)
■頌徳碑は、その土地において業績を残し、地域の発展に貢献した人物の顕彰碑
中島先生頌徳碑(東大和市多摩湖)
■歌碑は、詩歌(楽曲の作詞を含む)を記した碑。
野口雨情歌碑(三鷹市井の頭池畔)
■史跡は、歴史的に由緒ある場所に建てられた碑。
下原刀鍛冶発祥の地碑(八王子市下恩方町)
■戦役記念碑は、慰霊塔と類似の記念碑であるが、戦前の国家観の下で建てられたもの。
明治三十七八年戦役記念碑(調布市布多天神)
■自然災害伝承碑
滝本の洪水防石(青梅市滝本) 自然石に刻まれている
■御立野記念碑は、主に明治天皇がその場所に立たれたことを記念したもの。
明治天皇小仏峠御小休所址及御野立所(八王子市小仏峠)
■開設記念碑は、鉄道や駅の開設に関するもの
東小金井駅開設記念碑(小金井市東町)
■大典記念碑は、大正天皇や昭和天皇の即位の式典を記念して建てたもの
御大典記念碑(青梅市今井)
建立年代別件数
記念碑の建立年代別件数は次のようになっていました。
建立の時代 | 件数 |
---|---|
鎌倉時代 | 1 |
江戸時代 | 6 |
明治 | 26 |
大正 | 18 |
昭和 | 60 |
平成 | 5 |
建立年不明 | 7 |
計 | 123 |
この表で一番古い鎌倉時代の記念碑ですが、これは「元弘の板碑」として有名なもの(国指定重要文化財)で、昭和42年以前は東村山市の徳蔵寺の屋外にあったものが移転され、現在は徳蔵寺板碑保存館の室内で保管・展示されています。
建物の内部に保管されているものが地図上に表示されているというのは、ちょっと違和感がありますが、以前は屋外にあったのでよしとしましょう。
元弘の板碑(東村山市徳蔵寺板碑保存館内)
国土地理院の地図(地理院地図)は、道路や構築物などについては新しい状態に更新する手当てがなされているようにうかがえるのですが、「記念碑」についてはどうもそうではないように思えます。記念碑が何らかの事情で撤去されていても、いつまでも表示され続けています。
最近は、地図の更新は空中写真により行うことが増えているようですが、記念碑は上空からの写真で見ても厚さが数10cmで長さがせいぜい2mぐらいですから、しっかりと写り込んでいないのでしょう。現地へ行かないで空中写真だけで判断するやり方では、もう存在していなくなっていてもわからないのでしょうね。
さて、次回から3回にわけて、多摩地域に存在するすべての記念碑を紹介していこうと思います。