吉祥天が八番目の七福神

このブログでは、一昨年の7月から、身近な神仏を取り上げてきた。我々は、幼少時から、地元の寺社に出向いて本堂本殿奥の神仏に向かい、或いは道路沿いに居ます神仏に、手を合わせて拝んできたが、はてさてどんな姿の神仏か、どんなご利益のある神仏かも尋ねもせず調べもせずに、年齢を重ねて来た。そんな身近の神仏の来歴・ご利益の中身を探るべく、「四天王」から始まり、「地蔵菩薩」を経て、「弁財天」・「大黒天」・「恵比寿天」・「布袋尊」・「福禄寿」・「寿老人」・「帝釈天」のいわゆる「七福神」を取り上げて、「閻魔大王」で締めてきた。それで一段落と思ったものの、先日訪ねた七福神では、もう一つ加わって八福神となっていたので、改めてその八福神目の神仏を採り上げて探ってみたい。来月には、新たな年を迎えることになり、新たに各地で「七福神」を訪ねることもあろうが、ご参考までに。

「八王子の七福神」は、昭和56年に開創された比較的歴史の新しい七福神霊場であり、八王子の「八」の縁起の良さを、「七福」に付加して福運倍増を図ったものというわけだ。今年からは、正月の七福神巡りに加えて、「納涼八王子 七福神」を催して、七福神巡りを盛り立てており、その八福神目が、吉祥院の「吉祥天(きっしょうてん)」である。

八王子 吉祥院 吉祥天

 

日本各地の七福神には、処により、八福神目として、お多福・達磨・宇賀神などが、上記記載の定席の七福神に追加されているようだが、八王子の七福神(実は八福神)と同様に、埼玉県久喜市では「くりはし八福神」として寶聚寺吉祥天が付け加わっており、また千葉県八千代市でも、「八千代八福神」として8番目に妙光寺吉祥天が設定されていて、ここは八王子と同様に「七福より福がある」福運を、と詠っている。

 

では、その吉祥天(きっしょうてん、きちじょうてん)とは、どのような仏神なのだろうか。

仏教の守護神である天部の1つで、もとヒンドゥー教の女神であるラクシュミー(Lakṣmī)が仏教に取り入れられたもの。ヒンドゥー教では最高神ヴィシュヌ神の妃とされ、また愛神カーマの母とされる。仏教においては、父は徳叉迦(とくさか)、母は鬼子母神であり、夫を毘沙門天とする。妹に黒闇天がいる。早くから帝釈天や大自在天とともに、仏教に取り入れられ、後には、弁才天と混同されることが多くなったという。吉祥天とは繁栄・幸運を意味し幸福・美・富を顕す神とされる。また、美女の代名詞として尊敬を集め、前科に対する謝罪の念や五穀豊穣でも崇拝されている。海より生まれたインド出身の幸福と美の女神で、別名功徳天とも言われ、一切の災いを転じて吉祥とする福徳自在の功徳を持つといわれる。その優しさで多くの人々を助け、無量の功徳であらゆる衆生に福を与えるという。

インド神  ラクシュミー

 

 

古くから仏教に取り入れられ、国内でも幸福と美と富を表すものとして、篤く信仰されてきたので、仏像・絵画の名品も多い。


奈良 薬師寺  吉祥天(国宝)

 


奈良 浄瑠璃寺  吉祥天立像(重要文化財)

 

 

吉祥天の像容は、日本に仏教を伝えた古代中国の貴人風。宝冠をかぶり、瓔珞(ようらく) 等の装身具を身に着けている。左手に宝珠(如意宝珠)という球をもち、右手は与願印と呼ばれる形をしているのが一般的。与願印は仏像の手の形の一つで、「どんな願いも聞きいれます」という意味だ。女性の理想像として、美しいばかりでなく、奈良時代の『金光明最勝王経』という経に現れ、信者に福を授けるのが役目で、読経すれば、食事や衣服に困ることなく、家も栄えて五穀豊穣間違いなしと豊かになることをかなえてくれる役割を表していた。とはいっても、仏教が平民にまで行き渡るのはまだまだ先のことで、一時期は七福神の一角を占めていたものの、後発した女神弁才天に七福神としての地位を譲り渡すことになったようだ。

 

ところで、この吉祥天には黒闇天(こくあんてん)という妹がいて、天部の一尊となっているが、容姿は醜悪で、災いをもたらす神で、密教においては閻魔王の三后(妃)の一柱とされている。『涅槃経』には、この姉妹は常に同行して離れずと書かれている。

超美人の吉祥天が美と福をもたらすのに、不美人の妹が災いを授けるとは、全く正反対の対応だが、ともに仏教の守護神の居る天部に属しているのはなんとも理解に苦しまされるものの、常に同行するという、そういう正邪・美醜を一纏めにした世界が信仰世界にあることに不思議さを感じざるを得ない。日本においては、貧乏神として、また疫病神として黒闇天は恐れられる一方で、貧乏を払い福を招く神として信仰された例も存在するという。

この黒闇天が常に同行するため、遠い過去には七福神の一角から、吉祥天が追い出されて、弁才天にとって代わられたのだという説もある由。八福神が組成されて、吉祥天が復活して弁才天と同格の福神の列に並ぶのは、吉祥天の反撃劇なのかもしれない。

 

八王子七福神での吉祥院吉祥天は、夫の四天王毘沙門天(四天王の多聞天に同じ、単独で登場するときは毘沙門天と呼ばれる) とともに、仲良く並んで境内に祀られている。

八王子 吉祥院の 左:毘沙門天と 右:吉祥天

 

 

四国88ヶ所第63番吉祥寺の吉祥天を紹介したい。

88ヶ所の中で唯一、毘沙門天が本尊のこの寺院で、境内には、毘沙門天の妃である吉祥天の像があり、この像の下をくぐるとご利益があるとされていて、「くぐり吉祥天女」の名で、多くの巡礼者から慕われている。

愛媛県西条市 吉祥寺のくぐり吉祥天

 

もうひとつ、繰り言。

吉祥寺といえば、武蔵野市吉祥寺各町には吉祥寺という寺はない。東京都文京区本駒込に太田道灌開基の曹洞宗諏訪山吉祥寺がある。はてさて、どういう事情があるのか??

 

資料 Wikipedia 他