武蔵野市の主要道路の一つ、「中央通り」は武蔵野市をほぼ南北に走り、「千川上水」を横切ると、上水と並んで走る練馬区の道路と交差する。交差点の北側は練馬区である。交差点の名前は「更新橋」。
その交差点の四辻の武蔵野市側で、上水脇に「庚申塔」を祀るお堂が建っている。「更新橋」と「庚申塔」。なんとなく、交差点の漢字表記に違和感をおぼえる。庚申信仰について説明しているお堂脇の説明板のかすれた文字を、いささか老いを感じめる眼でたどる。
庚申信仰は、中国の道教思想に由来し、日本には平安時代に伝来したとか。その後、仏教などと結びつき日本独自の信仰に発展した。道教では、人間の体内に3匹の悪い虫(三尸、さんし)が棲むという。これを追い払うのが仏教では庚申の本尊の青面金剛(しょうめんこんごう)とされるという。庚申塔には忿怒の形相をし、6本の手を持ち、足元に邪鬼を踏みつける青面金剛が彫られている。庚申信仰は江戸時代に最も盛んであったとか。
ここまで読んで、お堂へ目を移したとき、お参りを終えた高齢の女性とぱったり目が合った。どちらともなく会釈を交わした。すると女性は、「私は大病を患いましてね。庚申様にお参りしたところ病気が治ったのですよ。それから毎日お参りしているのです。気のせいかもしれませんけどね」と語った。
突然のことなので、私は、「そっ、そうでしたか。お気持ちが通じたのですね」と応えてしまった。うろたえた気持ちになったが、参拝を終えて帰る女性の後ろ姿に清々しさを感じた。
我に返り、恐る恐る格子戸超しにお堂の中の青面金剛を覗いてみた。と、すると、あの忿怒の形相の青面金剛が「クスッ」と笑った。という気がした。