前回のブログでは地図記号の「橋」について書きましたが、今回は地図からはちょっと離れてしまいますが、「橋」に関連する事項で普段あまり聞くことのない「土木学会・田中賞」という興味深いものがありますので、脇道へそれますが、その賞について書きます。
土木学会・田中賞は、公益社団法人土木学会が橋梁や鋼構造工学における優れた業績に対して授与している学会賞で、昭和41年(1966)に創設されました。
田中賞を受賞した橋は、次の土木学会のサイトをご覧ください。
⇒公益土木学会田中賞
多摩地域には数えきれないほどの橋があるのですが、田中賞を受賞した橋は現時点で5つしかありません。(令和6年(2024)末までの受賞総数は302件。海外の物件も含む。)
ここから田中賞を受賞した多摩地域にある5つの橋梁について、その受賞理由とともに紹介していきましょう。
なお、読んでいて分かりづらい部分については、写真をご覧いただくことでどのようなことか、おおよそ分かるかと思います。
鶴乃橋(昭和58年受賞、多摩市)


多摩ニュータウンの尾根幹を跨いで戸建住宅地の間を結ぶ87mの人道橋。
鶴乃橋の特長は次の通りで、これが田中賞受賞の理由になっています。
(1)構造形式
周辺が住宅地のためプライバシーへ配慮して高欄を壁状にしており、さらに力学上と美観上の観点から橋台の付根部分で二次曲線として、流れるような水平方向への広がりを強調してダイナミックな構造的機能美を表現している。その結果、軽快で快適な親しみを感じさせている。

(2)照明
歩道橋を歩く人が壁高欄に対し圧迫感を持たないよう、上部にアルミ製の高欄を設け、照明を内蔵している。

(3)アルミ製高欄
壁高欄の高さを補完するために橋の中央部にアルミ高欄を設置しているが、主桁の二次曲線の美しさを損なわないよう、壁状にしないで櫛状にし、櫛歯の部分はコの字を伏せた形状の高欄としている。

(4)舗装
明るさと気品を持たせるためにレンガタイルを採用し、舗装パターンは茶系色を基調とし、グラデーション効果を持たせたパターンとしている。
(5)橋詰
尾根幹との連絡は優美な円形階段とし、周辺には樹木を植えて修景を施している。また憩いと展望の観点からベンチを設けている。

以上のように、周辺環境との調和を考慮した構造形式を採用し、かつディテールデザインに対する細かい配慮を行って周辺地域との融和と魅力ある快適な街づくりを実現している。
銀河歩道橋および鶴間歩道橋(平成元年受賞、町田市)



2つの歩道橋は、町田市の国道246号大和・厚木バイパス上に架けられている。この橋梁周辺地域においては、国道沿道と南町田グランベリーパーク駅周辺とが一体的な住宅地としての生活圏が形成されており、歩道橋は「まちづくり」にふさわしいものとなるよう、次のような景観を重視した構造対応を実施している。
■外装はホーロー鋼板を採用して素材のソフトなイメージを生かし、形状は曲面パネルを用い、橋全体に曲面を強調し、柔らかい印象を与えている。

■橋台および昇降部の壁面外装は、銀河歩道橋では道路本線を「天の川」に見立て、造形型枠を用いコンクリート壁面に「織り姫」と「けん牛」や四季の星座を彫り込み圧迫感を取り除いている。
■鶴間歩道橋では建設当時に隣接していた大学のキャンパスとの景観の連続性に留意し、構内の樹木を介して建造物との調和という点に主眼をおき、総タイル張りとしている。

■照明設備については、銀河歩道橋では桁上に突起物を設けることは避けてシンプルさを強調する意図で壁高欄の中に埋込むフットライト形式としている。
また鶴間歩道橋では高欄柱に埋込んで光が漏れないようにし、歩行者の安全性に配慮するとともにデザイン面でも効果をあげている。


■歩道面のアクセントとして絵入陶板を使用し、また歩道空間の有効利用として昇降路への導入部となる桁下およびその周辺をコミュニティ広場とすることにより、地域住民の通勤・通学のほか日常生活において役立って地元の方々に親しまれる施設となっている。


以上のように、2つの歩道橋は構造面・景観面において斬新な試みがなされており、市街地における歩道橋の新しい在り方を示したものとなっている。
長池見附橋(平成5年受賞、八王子市)


長池見附橋は、JR中央線四ツ谷駅上で交差する国道20号の跨線道路橋四谷見附橋を都の街路事業により架替えるにあたり、旧橋の鋼アーチ体や意匠が我国近代橋梁技術の道標として保存価値が大きいと判断して、多摩ニュータウンの長池公園を跨ぐ街路に、平成5年に移設復元したもの。

この四谷見附橋は赤坂離宮(現迎賓館)のネオバロック様式の装飾を随所に取り入れた装飾橋であり、歴史を持つ名橋が道路拡幅等に伴い次々と姿を消してゆく中で、この橋は大正2年に完成以来そのままの姿で供用され、市民に久しく愛され続けてきた橋。昭和47年には新宿区の彫刻工芸部門の文化財にも指定されていた。
この四谷見附橋は市(都)電が通っていたこともあり幅員約22mのアーチ橋であったが、復元にあたっては旧橋の形状を保存しながら幅員を17.4mとし、余った部材については材料の強度試験などの供試体や補修材として使用している。
復元においては安易に新規部材を制作することを極力避けて建造された。旧橋の橋灯・高欄等の装飾品はその後も四谷現地で再使用することとなったため、本橋では原形からの直接シリコン型取り等の技術を駆使して四谷見附橋と同一のものを復元し、また装飾品等失われていたものは資料より考証して再現している。

くじら橋(平成9年受賞、稲城市)


くじら橋は、多摩ニュータウン内の稲城中央公園と稲城第二公園を結ぶ橋長107.0mの歩道橋。この形式としてはわが国ではこれまでにない大規模な橋梁であり、設計に際しては、多摩ニュータウンの東の玄関口に位置しており都心方面からの来訪者に対するゲート性が求められたことから、設計コンペによってデザイン案を募り、その一席に当選したものを採用した。
ゲートとしてのシンボリックな形態が求められたことから、主桁を曲線からなるシャープな船底形断面とし、桁高・幅員とも大きく変化させることにより、シンプルでありながら十分にシンボルとしての形態とスケール感あふれる景観を実現している。ちょうどクジラの腹部を眺めているような印象を与えている。

また橋上には植栽を施しており、高欄・舗装・照明についても控えめなデザインとし、2つの公園を結ぶ自然な道を形作っている。


施工上の特徴としては、形状が3次元に変化することから、すべて寸法の異なる1,988枚の曲線型枠と4,150枚の櫛枠を工場で精密加工している。このように大がかりな変形型枠の使用例は他に例がなく、今後の新たなニーズに対して貴重な事例になっている。
多摩大橋(平成19年受賞、八王子市・昭島市)


多摩大橋は、昭和41年(1966)に開通した旧多摩大橋の慢性的な渋滞解消のために、平成19年(2007)にその上流側に隣接して建設された橋長461mのアーチ橋。
現在は、旧多摩大橋は右岸方面(八王子方面)行き、多摩大橋は左岸方面(昭島方面)行きとして供用されている。

この橋は、連続径間長として我が国で最長の橋梁。主径間は多摩川の河川部に位置していて主径間長が151mあり、これに対して一般部分の径間長が50mで、径間の比率が1:3となっており、径端支点への力の加わり方がアンバランスになるので主径間をアーチにより補剛することで対処している。また、主径間をアーチで補剛することによって桁高を全径間にわたって 2.4mで統一することができ、景観の向上も図っている。

将来、旧多摩大橋部分を架け替える際のことを考慮して、アーチについては同型式の並列化を想定してアーチが錯綜しないようバスケットハンドル形式(アーチの上部の間隔が狭くなっているバスケットの持ち手のような形状)としてすっきりとした優雅な構造美を創出している。

普段まったく気にしないで通行している橋にも、機能性、意匠性、芸術性を織り込んだものが多く、多摩地域には上の5橋以外にも選から洩れた名橋が多くあります。多摩を巡る際に、渡る橋をじっくりと観察するのも楽しいことと思います。
なお、土木学会・田中賞受賞の橋には次のような円形のプレートが付いています。

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