長沼公園と周辺、冬ばれの景色・一杯のコーヒー・50万年の歴史を見る

京王線で一日の乗降客の最も少ない駅はどこか?、競馬場線と動物園線を除けば3.4千人(2021年)ほどの「長沼駅」。浅川と湯殿川の合流部が近い、自然豊かな多摩丘陵が近いこともあって散策してみた。

長沼公園周辺 国土地理院地図使用 クリックすると拡大します(以下の画像も同じ)

長沼駅北側

駅は、踏切や八王子バイパスなど3.2㎞を立体化する連続立体交差事業が、昭和58年(1983)から10年の歳月をかけて平成5年(1993)に完成したことに伴って高架駅になった。

京王線長沼駅

大正14年(1925)3月に開通した玉南(ぎょくなん)鉄道(府中~東八王子(京王八王子))の駅として開業した。当初200ⅿほど東に駅用地を確保したが、北野と平山の中間が良いとされ(どちらにも1.2㎞)現在のところになったと聞いている。

駅から北に170ⅿほど行くと、浅川と湯殿川の合流部が見られる「長沼橋」だ、多摩の山々が遠くに見られ眺望が良い。南に目を向けると丘陵の上に富士山の頂上部が見られた。

長沼橋
浅川と湯殿川の合流(右が浅川)
富士山

合流部から湯殿川を700ⅿほど上流に、今の打越中学校の東側にレンガ工場があった。明治30年(1896)八王子煉瓦製造㈱が開業。その後、大阪窯業㈱八王子工場となって操業していたが昭和7年(1932)に火災のため閉鎖となった。地元では「長沼の煉瓦場(レンガバ)」と呼ばれ、最盛期は大正の中頃で近くに社宅もあり200名を超える従業員がいたそうだ。中央線小仏トンネル造成にも使われたと言う。

レンガ工場(清水正之著「長沼町・北野町わが街」から)

駅南側

駅すぐ南の長沼小学校を過ぎて北野街道を横切り、駅から南へ300mほどで都立長沼公園入口に着く。雑木林が残され照葉樹が多く、開発をまぬがれた山林の姿を見せる公園と紹介されている。また、古代の地層が現れており、御殿峠礫層が知られている。富士山を源とする山梨県で「桂川」、神奈川県では「相模川」と呼ばれる川だが、約50万年前の地層が古相模川の運んだ礫と考えられ、古相模川が多摩丘陵を抜けて東へ流れたことを想像させる。(御殿峠は国道16号線の町田と八王子の市境付近。地図に記した)

「霜降りの道」入り口

地層と分布図

展望園地と野猿の尾根道

公園中ほどの「霜降の道」を登る、700ⅿほど歩くと尾根道に出て、展望園地に着く。日野方面や八王子駅付近が眼下に広がる、長沼橋や中央線の鉄橋もよく見える。

尾根道
日野方面
八王子駅方面

尾根道を西に向かうと「鎌田鳥山」が見えてくる。今日の目的の一つで、店に上がってコーヒーを飲むこと。鳥料理を楽しみたいところだが、予約制で営業日が決まっていてそれ以外がカフェ営業日。今日はカフェ、出てきたコーヒーになぜかどら焼きが添えられて、これが合うんですと運ばれてきた。

「鎌田鳥山」入り口(左端)
店内の囲炉裏

岐阜県出身、東京神田で曲輪を製造販売していた鎌田辨弥(かまたべんや)さんがこの場所に霞網の猟場を昭和4年(1929)に設けたのが始まり。「〇〇鳥山」の元祖。昭和30年(1955)現上皇が、皇太子として学習院在学中ハイキングの途中に寄られ野鳥料理を楽しまれたとか。

野猿峠

ここから10分もせずに、野猿街道に出ると野猿峠のバス停が近くだ。この街道は「小野路道」と呼ばれ子安村ー猿丸峠ー下柚木村ー小野路村を経て都築郡に至る道で、峠の名前も猿丸とか猿山とか言われていた。昭和10年代前半頃から野猿峠と呼んだらしい。八王子方面行きの野猿峠のバス停近くに、コンクリート製の水飲み場が残っている。戦前から戦後しばらくの間、この坂を上り下りした人や馬が、一息つく水飲み場であった名残だ。

水飲み場
猿のレリーフ

この峠には滝山城主であった大石定久の墓があったと言われていたが、今は下った柚木の永林寺にある。永林寺本堂裏手の高台は大石定久の館があったとされている。

館跡の高台
大石定久の墓

公園と周辺

公園の野猿峠口に戻る、すぐ下の谷のモミジの紅葉が美しい、遠く長沼駅方面が見渡せる。ここは「殿ヶ谷の道」となっており、桜の木が多いので春は見事だろう。「霜降の道」まで戻る、少し下って道の分岐を「長泉寺尾根」に入り、さらに左の「西長泉寺尾根」道を下る。細い急こう配の坂を下ると公園唯一の駐車場に着く。

「殿ヶ谷の道」から長沼駅方面

「西長泉寺尾根」への分岐

公園の周辺には、先ほどの「殿ヶ谷の道」の出口近くに、長沼町の鎮守「六所宮(ろくしゃぐう)」の社がある。明治11年(1878)八剣社、熊野社など六社を合祀したことから六所宮と呼ばれるようになった。

六所宮

駐車場から公園の東端に進み、団地へ向かう坂道の途中に「お願い地蔵」が祀られている。令和五年の多幸を願って帰ることにする。カタクリの花も見られるので春を待ってまた来よう。

お願い地蔵