徳川幕府にも献上されたと伝わる奥多摩ワサビ

東京都の西北端に位置し、広い山域を有する奥多摩町には、関東山地に水源を持つ多摩川と多摩川へ注ぐ数多くの清らかな支流が流れている。奥多摩の山々の頂をめざして山道を歩いていると,沢筋を流れる水音が心地よく聞こえてくる。
沢筋に目を向けると、そこには思いも寄らずひっそりと杉木立に隠れるように作られた棚田を見かけることがある。棚田はワサビ田である。

奥多摩町を流れる多摩川と主な支流

奥多摩のワサビは、標高300m~1200mの高さの沢筋にひな壇状に棚田を積み上げて作った「奥多摩式」と呼ばれるワサビ田で栽培されている。
奥多摩の小さな沢は、水量が少なく、谷が急で作土が浅く、保水力が乏しいことから「奥多摩わさび組合」の人々は奥多摩の自然条件に合わせて独自の栽培方法「奥多摩式」を開発した。

ひな壇状に棚田を積み上げた「奥多摩式」のワサビ田

ワサビ(山葵)は日本原産の多年草で、キャベツや小松菜などと同じアブラナ科の植物であるが、栽培方法によって水ワサビと畑ワサビに区分されている。
水ワサビは清冷な流水により根茎が生育するワサビで、奥多摩のワサビは水ワサビである。一方、畑ワサビは茎や葉の収穫をめざすワサビで畑地で栽培されている。

厳しい自然環境で成育する奥多摩ワサビ

奥多摩の水ワサビの歴史は古く、300年にも及び、徳川幕府にも献上されていたという。

近年の水ワサビの生産量を見てみると、東京都(奥多摩町)は長野県、静岡県に次ぐ第3位で、全国でも主要な産地に位置づけられている(令和元年(2019)、33トン)。
台風などにより沢の増水被害を受けやすい奥多摩のワサビ栽培は、ワサビを守り育てようと務める地元の人々の熱意と努力によって支えられている。

奥多摩の厳しい自然環境下で育つ奥多摩ワサビは、外観は多少劣るとのことだが、厳しい環境が故に、水ワサビに求められる辛み、鮮やかな緑色、ねばり、こく、程よい甘みが詰まっていると評価が高い。

奥多摩ワサビ 種苗から2~3年かけて成熟する

奥多摩ワサビを用いた料理としては、わさび丼、わさび漬、わさび揚げなどが地元の味として推奨されている。
私は、奥多摩ワサビの小さな粒が入っているアイスクリーム、わさびジェラートも好みです。冷たさと程よいピリッとした辛みが、奥多摩の夏山登山の疲れを癒してくれる。身体と心に染みる一品である。

参考資料
  ・江戸・東京農業名所めぐり JA東京中央会
  ・奥多摩町 Googleマップ