多摩の東西南北の端の駅

今回はまずクイズを出します。
Q.多摩地域の東西南北の端に位置する駅は、それぞれどこでしょうか?

地図を眺めれば答えはすぐにわかってしまうのですが、まずは地図を見ないで考えてみてください。

多摩の最西端の駅

正解率が最も高いと思われるのが「最西端の駅」でしょう。
西端の駅は、JR青梅線終点の奥多摩町の「奥多摩駅」です。

昭和19年(1944)に駅ができたときは、地名の氷川をとって「氷川駅」と名付けられましたが、昭和46年(1971)に、観光地の名称として定着してきた「奥多摩」に取り換えて奥多摩駅と改称しました。(その前、昭和30年に氷川村はじめ三村合併で奥多摩町ができています。)

この駅は、簡単に想像できるように、多摩地域で標高の最も高い駅です。標高は343m。もちろん東京都内でも最も高い駅です。

最西端の駅で奥多摩の山岳エリアへの入り口にあたりますので、週末には多くの登山者・ハイカーがこの駅に降り立ち、山へ向かうバスに慌ただしく乗り換えるために賑わいます。その一時以外は、山間ののどかな終着駅として静かな時間が流れています。
駅舎は山小屋風のデザインになっており、平成9年(1997)に「関東の駅100選」に選ばれています。右の丸窓など、ずいぶんおしゃれなデザインです。

小河内ダム建設時(昭和32年竣工)には、この駅からさらに西へ、ダム建設の資材を運ぶための東京都水道局小河内線(専用鉄道)が敷設されていました。ダムが竣工したのち西武鉄道がこの専用線を取得して、奥多摩駅からさらに西へ一般鉄道を敷こうと動き出したことがありました。その計画は実現することなく消えてしまったのですが、実現していれば、奥多摩駅よりも更に西に駅ができていたことになりますね。

東京都水道局小河内線は奥多摩駅から小河内ダム脇の水根に通じていた。
                     1/50,000「五日市」S47

多摩の最北端の駅

二つ目からはちょっと答えが怪しくなるのではないでしょうか。
最北端の駅も奥多摩駅ではないのかな、と思われる方は多いのではないかと思いますが、実は違います。
奥多摩駅の3つ青梅駅寄りの「古里(こり)駅」です。

青梅線は多摩川に沿って奥多摩駅へと西へ向かいます。多摩川の本流は、おおざっぱに言って上に膨らんだ曲線で流れており、一番上に(=一番北に)膨らんだ所が古里駅付近になっています。


古里駅の左隣の「鳩ノ巣駅」も最北端を競う位置にありますが、緯度の差で4.6秒、距離では約110mの差で古里駅の方がわずかに北に位置しています。


北端の駅と言ってもそれに関連する何かがあるわけでもなく、また「北」からイメージするような寒々とした風情もありません。
三角形を基調としたデザインに加えて奥多摩産の木材を多く使うことによって、駅の景観を際立たせています。

上り・下り列車がそれぞれ毎時1、2本発着しており、1日の乗降客数は255人です。(2014年)
収支面ではJR東日本にとっては重荷となる駅なのでしょうが、敢えて言えば、そんなところが「最北の駅」のイメージに重なるところかもしれません。

古里という駅名ですが、昭和19年に駅ができた時、そこは古里村でしたのでそのように命名されました。
さらに遡ると、古里村は明治22年の町村制が敷かれた時に7つの村が合併してできたのですが、この7村に古里村はなく、この時新たに命名された村です。
村内を流れる入山川の「古里附の滝」(「垢離尽の滝(こりつきのたき)」とも書かれ、御嶽山、一石山への参詣者が水垢離(みそぎ)をした滝と言われる)の「古里」を採り、「ふるさと」の意味もこめて名付けられと言われています。

「新編武蔵風土記稿」では「古里附の滝」を「不動滝」ととして紹介している

多摩の最南端の駅

南の端の駅は、あの辺りだ、と指し示すことはできるかもしれませんが、駅名を言うとなるとちょっと難しいと思います。

多摩における最南端の駅は、町田市の東急田園都市線の駅「南町田グランベリーパーク駅」になります。

多摩地域に住んでいるほとんどの皆さんは東急を利用することがあまりありませんので、少々馴染みのない駅ではないかと思います。
しかもこの駅名は2019年に「南町田」から改称されていますので、新しい駅名を見聞きする機会は更に少なかったのではないかと思います。

駅名の後ろについている「グランベリーパーク」って何?と気になるところですが、立川市の「グリーンスプリングス」と同様に、駅前再開発で新たに誕生した公園機能を備えた商業施設です。もちろん町田市と東急が深く関わっています。
元々、南町田駅の南に隣接してグランベリーモールという屋外型アウトレットモールが2000年に開業していたのですが、施設の老朽化が進んだため、近隣の鶴間公園や駅前広場を含めて一体的に再開発が行われ、2019年にオープンしたものです。そしてその時に駅名も変更されました。

この駅の標高は75mで、東急電鉄全駅の中で最高所の駅になります。
加えて、想像はつくかと思いますが、駅名を文字表記すると12文字となり、多摩地域で一番長い駅名になります。ただ、かな文字数では15文字となり、残念ながら多摩都市モノレールの「中央大学・明星大学」(ちゅうおうだいがく・めいせいだいがく)(18文字)に次ぐ長さです。

最近新しくできた南町田の「グランベリーパーク」と立川の「グリーンスプリングス」の両方の街区を訪ねて、現代風の街づくり、賑わいづくりを比較するのも楽しいのではないかと思います。

町田市・東急電鉄・ソニークリエイティブプロダクツ発表の「まちびらき」プレスリリース(2019年5月14日)
https://minami-machida.town/tsushin-data/20190517/20190517_02.pdf

多摩の最東端の駅

一番紛らわしいのは東の端の駅ではないでしょうか。
東西方向に走る鉄道路線はたくさんあって、それぞれの路線の東の端の駅のどれが最も東にあるか、というのは、頭に地図を描いてもその微妙な位置関係は正確には分かりかねます。

多摩の最東端の駅は三鷹市にある京王井の頭線「三鷹台駅」です。


各路線の東の端の駅としては、北から順に、西武池袋線の「保谷駅」(西東京市)、西武新宿線の「東伏見駅」(西東京市)、JR中央線の「吉祥寺駅」(武蔵野市)、京王井の頭線の「三鷹台駅」(三鷹市)、京王線の「仙川駅」(調布市)、そして小田急線の「喜多見駅」(狛江市)となっており、そのうちどれが最も東に位置しているかは、地図なしではまずわかりません。
地図でよーく確認すると、「三鷹台駅」がどれよりもわずかに東寄りにあることがわかります。

三鷹台駅付近においては、京王井の頭線は神田川の谷筋を走り吉祥寺駅へ向かっています。
標高を約10倍に拡大した3D図で見ると神田川が武蔵野台地を侵食している状態がよくわかります。

そして、駅のある所は神田川の脇ですので「台」とつくのは不自然ですが、駅の南側を見ると半島のように突き出した台地があって、そこが駅名の由来であることがわかります。(住居表示としては三鷹台という地名はありません。)

先のブログで永井荷風が三鷹を訪ねた折のことを書きましたが(「三鷹を訪ねた永井荷風-地図を使って荷風の見た三鷹を追う」2021.7.26)、その際井の頭線から見た風景描写で、

丘陵の起伏するあたりに洋風家屋の散在するありさま米国の田園らしく見ゆる処もあり。

永井荷風「断腸亭日乗」S18.10.27

という文章があります。ちょうど井の頭線が三鷹台駅付近を走る時に北を見上げるとミッション系の立教女学院の建物が目に入ってきて、まさにこの風景を書いたのではないかと思われます。
なお、神田川は三鷹市と杉並区の境界になっていますので、三鷹台駅はぎりぎりで多摩エリアに納まっています。


以上多摩の四隅の駅を紹介しました。
ひとつの地図にまとめて図示すると次のようになります。


そんなもの好きな方はいらっしゃいませんでしょうが、この4つの駅をまとめて巡ろうとすれば、ほぼ1日を必要とします。(※)

「乗換案内」のアプリで調べると、立川駅を午前9時に出発して、立川駅→三鷹台駅→南町田グランベリーパーク駅→古里駅→奥多摩駅→立川駅と一巡すると、立川駅に戻ってくるのが18時近くになります。(各駅では30分の下車時間を確保。休日ダイヤにて)


掲載した各地図は、「地理院地図」を利用して作成したものです。