多摩の「最奥」の場所

今回は、地図を使って遊んでみます。
「タイトルにある多摩の最奥ってどういうことだろう?」ときっと思われることでしょう。
「多摩の最奥といえば多摩の西端の雲取山辺りではないのか」と思う人もいるかもしれません。でもそれは、東京の都心から見て一番遠い所ということからの錯覚です。
例えば山梨県から見れば雲取山付近はすぐ隣で全然奥まった場所ではありません。
ここで言う「多摩の最奥」は、「多摩以外の場所から見て一番遠くにある地点」という意味でとらえてください。

その地点を求めようとすれば次のようなステップになるでしょう。
①多摩のある地点から多摩の境界線上までの距離を測り、
②それを境界線上をぐるりと一周しながら距離を測り続け、
③その測った距離のうちで一番小さいものがその地点における多摩の境界までの最短距離になります。
④次にその地点を多摩全域で移動させながら、各地点における多摩の境界までの最短距離を求め、
⑤すべての地点における最短距離を比較して、一番大きい数値になる場所が、「多摩の最奥地点」になります。
しかし、この作業って考えただけでもうんざりします。
コンピューターだったら①~⑤をプログラミングすれば、瞬時にやってしまうのでしょうが、私の使うことのできるデータやパソコンの操作能力からして、それは不可能です。

しかし、「アナログ的な発想」によるアプローチでいけば、正確な地点をピンポイントで示せなくても、おおよその場所を指し示すことができます。
それをやってみます。

まず、①~③ですが、ある地点を中心にして円を描いて、それが多摩の境界線からはみ出さないように一番大きくしたときの半径がその地点の多摩の境界までの最短距離になります。
下に例として示したのが、八王子駅から多摩の境界への最短距離になります。(八王子駅から一番近い多摩の境界点は、町田市相原町の清水寺の南側の境川です。)


したがって、多摩地域の境界の内部に円を描きこんでみて、その円が一番大きくなる時のその中心点が「多摩の最奥地点」となります。
次の図で「この円が最大!」と示している円を他の場所へ移動すると多摩の境界線を飛び出してしまいますので、これが最大の円です。


この方法によると、精度は少々落ちますが、意外と簡単にそのような円を描きだすことができます。(人間のアナログ感覚ってすごいな、と思います。)
そしてその中心がどこかを見ますと、住居表示では「日の出町大久野1667付近」(日の出町幸神(さじかみ)の大久野保育園の脇辺り)という結果が出ました。
※どなたかに、ピンポイントで正確な地点を特定していただきたいものです。

私が求めた多摩の最奥地点から多摩地域の境界までの距離は約10.3kmとなりました。
ここに書いた作業は国土地理院の「地理院地図」のサイトにおける「作図」の機能を使って試行錯誤を繰り返すことでできます。

さて、現地へ行ってみましょう。矢印で示している場所です。

Googleマップの航空写真で見るとこうなっています。

下の写真は、現地へ行ってその場所を南から眺めたところです。ここが「多摩の最奥地点」であることを示す表示は何もありません。(何か有益な情報であるわけではありませんので、当然でしょう。)

ここが「多摩の最奥地点」ということは、別の見方をすれば、SF小説風の筋立てで多摩の外へ脱出しなければならない事態が起こった場合に、この場所にいると一番逃げ遅れてしまうという、そういった場所ということになりますね。

話はそれますが、上に示したこの場所の地図をみると百数十メートルほど北西(左上方向)の所に「史跡・名勝・天然記念物」の地図記号(∴)があり「アカシデ」と表示されています。
ここは幸神神社参道入口脇の斜面になるのですが、そこには国の天然記念物に指定された「シダレアカシデ」があります。このアカシデは、その枝ぶりは見る者の目を奪い、天然記念物に指定されるに相応しい優雅で荘重な風格を持っていますので、一見の価値があります。

幸神神社のシダレアカシデ(2021年1月撮影)

今回のテーマとした「○○の最奥」といった捉え方と基本的には同じことではあるのですが、「日本で海から一番遠い場所はどこか?」といった有名な(?)クイズがあります。
これですと「多摩の最奥」よりはイメージがつかみ易いかと思います。
これも、先ほどやった方法でその場所を示すことができます。日本地図の中に円を描いて、一番大きく描けるものを探しますと、次のようになります。

※北海道の中にもっと大きな円が描けそうですが、国土地理院の地図は「メルカトル図法」を採用しているので、高緯度ほど拡大されて表示されています。

この中心は何処かといいますと、長野県佐久市田口字榊山209-1(北緯36度10分35.87秒、東経138度34分51.35秒)です。この場所の特定については国土地理院が調査して求めたものですので、細かい数値まで分かっています。この場所は市街地から10kmほど離れた標高約1,200mの山中にあるということですので、簡単には到達できません。

佐久市のホームページにある「日本で海から一番遠い地点」の解説ページ

日本で海から一番遠い地点に立ってみるのはいささかマニアックな興味深い体験になるのでしょうが、まずはもっと容易に到達できる「多摩の最奥地点」へちょっと出かけてみるのはいかがでしょうか。
繰り返しますが、そこには何もありませんのでご承知おきを。
ついでに天然記念物シダレアカシデをご覧になることをお薦めします。

<使用した地図など>
・白地図を含む地図は、国土地理院の「地理院地図」を利用
・Googleマップの航空写真を利用