武蔵国分寺種赤米のはなし(7)〜土壌調査結果について〜

今回の武蔵国分寺種赤米のはなしは、赤米の生育不良を打開すべく本年2020年9月22日に行われた「国分寺市赤米栽培圃場の土壌分析結果」についてお知らせします。

圃場の場所は国分寺市西元町の塔跡2の南になります。この場所での赤米栽培は今年で2年目ですが、年々収量が減っている状態で今年は1/3の株が枯れてしまうまで生育不良が酷くなってしまいました。

そこで、お隣りの小金井市にある農工大の豊田研究室に生育不良の原因調査をお願いしました。今回、その調査結果について書きたいと思います。

結論:生育不良の原因はセンチュウでは無くアルカリ性だった

結論として生育不良の原因は土壌のアルカリ性が強いためだと分かりました。対策としては酸性化で安価な硫黄や有機物を投入すると良いとのことでした。

調査をお願いしてあった農工大の豊田教授からお聴きした土壌分析結果を以下に書きます

3カ所の土壌を調査

栽培圃場の生育状況が異なる以下の3カ所の土壌分析と線虫の確認と生育試験を行いました。

①生育不良

①生育不良な土壌

②生育やや不良

②生育やや不良な土壌

③生育良好

③生育良好な土壌

イネシストセンチュウはいない

まず、当初原因ではないかと予想していたイネシストセンチュウを①生育不良のイネ根部で調べましたが、まったく居ないことが分かりました。その他の有害なセンチュウのネグサレセンチュウとワセンチュウも極少なく、肉眼で確認できた線虫は植物の生育に有用な線虫でした。この結果、赤米の生育不良の原因は線虫では無いことが分かりました。(土壌分析結果1.センチュウの寄生状況から)

ネグサレセンチュウ

ネグサレセンチュウ(有害線虫)の写真

ワセンチュウ

ワセンチュウ(有害線虫)の写真

PHが高く栄養不足で鉄分が少ない

次に土壌に含まれる植物への各栄養成分についてみていきます。
まずpHが異常なほどに高い(アルカリ性が強い)。植物にとっては弱酸性が良いとされていて特にイネ科の植物は酸性土壌を好むと言われている。原因としては圃場が以前、家庭菜園として利用された時期に苦土石灰や消石灰を複数回にわたって投入したことと思われる。(土壌分析結果2,土壌の状態と含有量 a.酸アルカリ性と伝導率 から)

養分(EC)と窒素が少ないのはアルカリ性であるために窒素などがイオン状態で存在できずにいることを表している。(土壌分析結果2,土壌の状態と含有量 a.酸アルカリ性と伝導率、d.窒素 から)

これは鉄分で顕著に数字に表れていてる。土壌の可給態鉄が少なくなるにつれ生育が不良になっていくさまが如実に表れている。可給態鉄が5.6mg/kgという値は通常植物が栽培出来ないほど低い値となっている。(土壌分析結果2,土壌の状態と含有量 c.カルシウムと鉄 から)

分析結果を確認するために生育試験

分析結果を確認するために、湛水化(田んぼ状)したもの、消毒したもの、鉄添加したもの、酸性添加したものを研究所内で白米でその生育状況を調べた。

まず湛水化すると好結果となった。これは国分寺市地域でも他の田圃だと生育が良いことと一致した。これらの土壌でも湛水化すると鉄を含めて栄養分が植物へ供給できる様態に変化することが分かった。(土壌分析結果3,イネの生育試験 a.畑状(陸稲)と湛水の生育試験 から)

湛水化の試験

①と③の土壌を湛水化した場合の生育試験

線虫を含めた植物害虫を消毒・駆除したのちでも生育は良くならなかった。これは調べた①生育不良の土壌でも線虫頭数が少なく線虫が生育不良の原因で無いことを裏付けた。

次に鉄を添加した場合は生育に効果は見られたが大きなものでは無かった。これは鉄は供給されたが他の栄養成分が植物へ供給されなかったためだと思われる。

最後に、酸性化した土壌では大きな効果をみることができた。これは酸性化したことにより鉄だけで無く他の栄養成分も供給できる状態になり生育が良好になったことが分かった。(土壌分析結果3,イネの生育試験 b.生育不良の土壌を各処理した上での生育試験 から)

処理試験

①の未処理と土壌消毒、鉄添加、硫酸添加した場合の生育試験

赤米畑を酸性化するには硫黄

研究所内では硫酸を用いて酸性化したが、実際の圃場で危険な硫酸を用いるのは現実的ではない。研究所では比較的に安価な硫黄を用いることが提案されました。

来年度は、硫黄と有機物の投入

また有機物が分解されるときでも酸性化するとのお話しを聴きました。来年度は硫黄と有機物を投入してみようと思います。豊田教授並びに研究室のみなさん、ありがとうございました。今後もよろしくお願いします。

国分寺市赤米栽培圃場の土壌分析結果

採取日付 2020年9月22日(天気晴れ)
採取   生育状況が異なる以下の3カ所から赤米根部と土を採取した
①生育不良
②生育やや不良
③生育良好

結果

大きく分けて3つの調査と分析、試験を行った。

1.センチュウの寄生状況

赤米根部に寄生するセンチュウの数を数えた。数字は頭数/20g土壌

a.有害線虫(=植物寄生性線虫)
ー       イネシストセンチュウ
①生育不良       0
②生育やや不良     0
③生育良好       0
備考         居ない

b.有害線虫(=植物寄生性線虫)
ー       ネグサレセンチュウ
①生育不良       2
②生育やや不良     2
③生育良好       1
備考         少ない

c.有害線虫(=植物寄生性線虫)
ー       ワセンチュウ
①生育不良       1
②生育やや不良     2
③生育良好       2
備考         少ない

d.有用線虫(=自活性線虫)
①生育不良       41
②生育やや不良     88
③生育良好       70
備考        多いほどよい

2.土壌の状態と含有量

植物への各栄養成分を分析した。
a.酸アルカリ性と伝導率(養分)
ー         pH      EC
ー          (H2O)    (mS/cm)
①生育不良     7.7    0,11
②生育やや不良   7,8    0,12
③生育良好     7,3    0,06
推奨値       6.0-6.5    0.2-0.5
判定        高すぎる    養分不足

b.リン酸とカリウム
ー        有効態リン酸  交換態K
ー          (mgP/kg)   (mg/kg)
①生育不良     56,9   536
②生育やや不良   59,1   625
③生育良好     46,6   238
推奨値       44-133    166-290
判定        良好高    若干過剰

c.カルシウムと鉄
ー        交換態Ca    可給態鉄
ー          (mg/kg)    (mg/kg)
①生育不良     3946   5,6
②生育やや不良   3739   7,1
③生育良好     3078   7,9
推奨値      1800-2900   12.0下限値
判定        若干過剰   不足

d.窒素
ー        可給態窒素   硝酸態窒素
ー          (mg/kg)    (mg/kg)
①生育不良     30,7   73,7
②生育やや不良   31,5   42,7
③生育良好     35,1   31,9
推奨値       50-      ー
判定        若干少なめ  計測誤り

3.イネの生育試験

線虫の頭数と成分分析結果を確認するために①生育不良と③生育良好の土壌を用いて白米のイネで生育試験を行った。
a.畑状(陸稲)と湛水の生育試験
ー         畑      湛水
①生育不良     X      ◯
③生育良好     △      ◯

b.①生育不良の土壌を各処理した上での生育試験
ー      生育状況  処理
土壌消毒   X     クロルピクリン
鉄添加    △     480g/m2
硫酸添加   ◯     PH6、68L/m2

以上