万葉人が愛でたハギ・・・「秋の七草」に「木」が存在する理由とは⁉

秋の七草の歌といえば、山上憶良の2首が有名である。

「芽の花尾花葛花撫子の花姫部志又、藤袴朝顔の花」

「秋の野に咲きたる花を指折りかき数ふれば七種(ナナクサ)の花

この歌のように秋の七草に最初にハギが登場する。何の疑いも持たないがよく考えると疑問符が付く。ハギは草だろうか?いいえ!ハギは植物分類上、草でなく木である。ハギが七草に入っているのは二つの理由がある。

≪秋の七草の一つ ハギ≫

一つは、万葉人がハギを木とは思わず草として扱っていたと考えられること。万葉集には「萩」の字は登場しない。後世に萩が草冠を与えられた和製の漢字であることを思えば頷ける。万葉集のハギの表記は「芽子」が多く、芽、波義、波疑という表記もある。ハギを芽と表記しているのは毎年、根元から芽が良く吹き、草のような芽であると万葉人は感じ取っていたと推測される。

二つ目は、山上憶良の歌に見られるように「七種の花(ナナクサのハナ)」と詠まれ、七草の花ではないこと。つまり、秋の七草は憶良の詠みのとおり秋の七種(ナナクサ)と表記するのが正しいと思われる。これが草だけの春の七草(セリ,ナズナ,ゴギョウ,ハコベラ,ホトケノザ,スズナ,スズシロ)との対比で秋の七草の中に、木であるハギが草として組み込まれてしまったのではないかと推測されている。

・他の秋の七草の写真 ≪ススキ≫ ≪フジバカマ≫ ≪クズ≫

 

 

 

 ≪オミナエシ≫   ≪キキョウ≫     ≪ナデシコ≫

   〈上記の写真 フジバカマ、ナデシコ 原田氏提供〉

万葉人の花見

ハギは小さく散るのも早い!にもかかわらずハギに深い思いを抱いてきた。万葉集には160首の植物が詠まれ、このうち141首にハギが詠まれている。このことから万葉人のハギに寄せる関心の深さを知ることができる。141首が何処で詠まれたか調べてみると、野辺・原・山・裾など野外のハギが詠まれており、万葉人は秋になるとハギの花が咲くのを心待ちにしていたことが頷ける。

参考書…湯浅浩史著・植物と行事 朝日選書478