多摩地域で馴染のある多摩川の堰に羽村取水堰と小作取水堰がある。国土交通省 京浜河川事務所の広報によると、これら2つの堰の他に、多摩川水系の保全区域には下流から上流に向かって調布取水堰、ニヶ領宿河原堰、二ヶ領上河原堰、大丸用水堰、日野用水堰、昭和用水堰の6つの堰があるという。
羽村取水堰と小作取水堰を合わせた8基の堰はいずれも規模が大きく、歴史的価値が高い堰と評価している。
今回、多摩川の下流にあって河口に最も近い調布取水堰を訪ねてみた。
調布取水堰は河口から約13㎞上流にあって長さが104m、左岸が大田区田園調布、右岸は川崎市中原区上丸子に位置している(調布取水堰の調布は調布市ではなく、田園調布の調布に由来している)。東横線、目黒線、東急多摩川線が乗り入れている多摩川駅からおよそ5分の場所にある。
調布取水堰は、昭和11年(1936)飲料水の供給と、河口に近いことから防潮を兼ねて造られた。原水は調布浄水場と玉川浄水場へ送られて浄化され、周辺地域へ給水されていた。
しかし高度成長期に多摩川は水質が急激に悪化したため、昭和45年(1970)飲料水としての供給を停止し、現在、取水は工業用水のみに利用されている。
調布取水堰は、閘門(こうもん)、水門、可動堰(起伏式)、固定堰を備えた堰で、水門の脇に魚道が設けられている。今回の訪問時、水門の工事に伴う作業ということで、可動堰は伏せられていた(倒されていた)。多摩川の水は伏せられた堰の上を上流から下流に向かって勢いよく流れていた。
調布取水堰の下流域に、東京ガスがガス管を渡しているガス橋がある。そのガス橋の上流約500mの多摩川左岸で毎年アユの遡上調査が行われている。
高度成長期、水質悪化のため多摩川はアユも棲めない川となった。その多摩川も、水質改善の取り組みにより、昭和50年(1975)からアユが戻ってきたという。遡上数は毎年増加傾向を示し、昭和58年(1983)から令和2年(2020)までの年平均の値は195万尾に達している。
東京湾で育ち、若アユとなって多摩川を遡上するアユにとって、最初に迎える大きな試練は調布取水堰の通過とされている。そのため、調布取水堰では平成19年(2007)からアユの遡上時期(3月~5月)には可動堰を伏せて、アユが楽に堰を通過できるように配慮している。
今年も、元気に堰を越えて遡上する若アユの姿が多摩川に映し出されることであろう。
参考資料
*国土交通省 京浜河川事務所資料
*東京都島しょ農林水産総合センター資料
*地理院地図