西村京太郎『青梅線レポートの謎』の謎にせまる⁉

朝日新聞beに掲載されている原武史氏のコラム『歴史のダイヤグラム』を楽しく読んでいる。2021年2月27日付け「青梅線と革命思想の関係」も興味深いものであった。

原氏によれば、青梅線と革命思想との関係は浅くないとしている。
きっかけになったのは、1951(昭和26)年に日本共産党が第4回全国協議会で反米武装闘争の方針を決定し、毛沢東思想のもとに革命の担い手となる「山村工作隊」を奥多摩一帯に派遣したことだとする。奥多摩駅が氷川駅と称していた時代の話である。工作隊は氷川からバスで小河内村(現・奥多摩町)に入った。結果的に工作隊は村民からの支持を得られず、55年の共産党第6回全国協議会で反米武闘闘争は誤りとして否定されたが、毛沢東を信奉する新左翼は、奥多摩を革命の拠点にしようとした。
後に連合赤軍の最高幹部になる永田洋子(ひろこ)は、雲取山に山岳ベースを築くことを提案した。

そして、村上春樹の小説『1Q84』にふれている。
『1Q84』には、主人公の一人、天吾と「ふかえり」なる少女が、立川から青梅線に乗り「二俣尾」で降りる場面がある。ふかえりの父親は、毛沢東思想を信奉しており山梨県の山中に「さきがけ」と呼ばれるコミューンを築くが、内紛により行方不明となる。ふかえりだけが県境を越えて青梅線に乗り、二俣尾の父の友人を訪ね、以来そこで育てられる。

『1Q84』で天吾とふかえりが眺めた青梅線の車窓風景は、50年代から70年代にかけて革命を志した若者が見た風景と重なっていた。村上春樹が奥多摩と青梅の間に位置する駅を小説の舞台にしたのは、それなりの意味があったのだ。

と結んでいる。

私は『1Q84』を読んだ時に二俣尾が登場した時、思わずニヤリとしてしまった。立川や八王子でもちょっと嬉しいのに、世界的認知度の小説で二俣尾である。その二俣尾にこんな伏線があるとは思わなかった。

そして、昨年暮れに読んだ西村京太郎の『青梅線レポートの謎』を思いだした。西村京太郎といえば、鉄道のトリックを使ったミステリーで知られている。私も青梅線のうんちくや沿線の風物描写などを期待していた。しかし内容は全く異なるものだった。AI、クローン、ロボット、サイボーグ、化学兵器といったことばが登場し、もはやSFである(科学的説明は乏しいが)。
知能指数2万のAIに自分の意識と経験値をプラスした頭脳に、サイボーグ化した体を合体させて永遠の生命をもち日本を支配しようとする人物が、奥多摩から青梅、立川、新宿と東へ制圧の手を伸ばして行こうとする。十津川警部ものであるだけに、違和感はぬぐえなかった。
ネット評でも、荒唐無稽!、なぜ?、どうして?という戸惑いの声が多かった。

しかしこのコラムを読んで思った。西村氏は当然、青梅線沿線におけるこれらの歴史はご存じだろう。青梅線と過去の革命思想にまつわる事件が結びついており、この作品の着想になったのではないかと考えた。
早々に売却してしまったが、そう思ったらもう一度読み返したくなって図書館を訪ねた。

西村京太郎「青梅線レポートの謎」