「第50回多摩めぐり 作家吉村昭の書斎を訪ね、あわせて多摩地域の東端エリアを散策する」を12月21日(日)に開催します

多摩で出会った花 ~episode11~
檜原村の姫女苑(ヒメジョオン) のりさん

早朝の中央線、荷物を抱えた女性がバランスを崩しそうな姿を見かねて棚に荷物を上げて差し上げた。前の座席に座るやや年上に見える連れの女性から丁寧にお礼を言われた。二人の醸し出す雰囲気に惹かれて行き先を訪ねた。するとこの時期に現れる幻の蝶を見に行くという。
一年前、吟行を目的として訪れた先で見た幻の蝶が飛ぶ姿をもう一度見てみたいという。連れの女性も幻の蝶が見たくなり同行を願い出て柏から出てきたという。私もどうしてもその蝶が見たくなり、行き先を変えて同行させていただくことにした。

払沢の滝入口でバスを降り、一年前の記憶頼りの先達さんの後を追い、急登藪こぎと見当違いで行きつ戻りつ、他人様の敷地内を渡り歩くこと90分、姫女苑の群生の中にウスバシロチョウがふわりと舞う姿に出くわした。初夏の日差しを浴びた透明な翅はふわ~り、ふわ~りと舞い、そこだけ時が緩く流れていた。

ウスバシロチョウとヒメジョオン 2019年5月23日 檜原村

ウスバシロチョウに出逢えて心満たされると空腹を覚えた。しばらく歩いて平らな場所にシートを敷いて座ると、草いきれに包まれ緑濃い檜原村の景色が見渡せた。お二人が用意したお弁当は、私が追加で加わることがわかっていたかのように品数が多く子供の頃の運動会で家族と親戚が集まって食べた賑やかな昼を思い出した。遠慮なく頬張り、初めて会ったとは思えないほど会話も弾んだ。その和やかな時は姫女苑で翅を休めるウスバシロチョウの美しさとともに記憶に刻まれた。今年もまたその季節が巡りくる。