多摩に降り立った日
昭和61年4月1日、私が多摩と出会った最初の日だ。入社後初めての転勤で赴任したのが、府中にある工場だった。その朝、駅を降りた大勢の群れが広大な敷地に吸い込まれていく光景を忘れない。誰ひとり知り合いのいない新しい職場。不安と緊張に満ちていた。
最初の出迎え
工場には操業から50年近く見守ってきた大きな桜並木があり、数百メートルに渡って見事な枝ぶりを誇っていた。この下で従業員、地域住民一緒に行う会社主催の「さくらまつり」が恒例行事で、ライトアップされた夜桜のもと、車座になり新しい職場の先輩から洗礼を受けた。
四半世紀を経た再会
府中で数年勤務の後、春の桜に見守られ遠くの事業場に転勤して行った。そして時は過ぎ令和元年、25年ぶりに再び府中事業場に縁あって勤務することになった。33年前のあの日と同じく圧倒的な存在感で咲き誇る桜が迎えてくれた。
今年も咲いた
今年もまた府中に桜は咲いた。でも、あの時の賑わいはない。なぜ、群れることなく、寡黙に去っていくのか、桜は不思議に思っているに違いない。桜に罪はないが、巨大化し老木となったために、順次伐採され新しい苗木に植え替えられることになった。
桜よ、いつかまた会おう
勤め人である私。府中の桜とは来年でお別れだ。もう転勤することも、再び赴任してくることもなくなる。そう思うとまた感慨深い。
多摩に住むようになって、数多くの桜の名所があることを知った。だが、私にとって、府中の桜は自分を迎えてくれ、そして、見送ってくれる特別な存在なのである。
2021年4月14日