植物学上のヤブツバキは別名として一般的にツバキと呼ばれている。日本原産の常緑樹であり、日本を代表する樹木の一つである。ヤブツバキを母種として多くの園芸種(~ツバキ)があり、その数は800種を超えるという。変種として良く知られている日本海側に生息しているユキツバキ、茶人に好まれるワビスケなどがある。ヤブツバキは東北地方から九州地方までの暖地に分布している。特徴は耐陰性が非常に強く日当たりが悪くても枯れることなく生き続けている。
花は、冬から早春にかけて咲き、花びらは5~6㎝で鮮やかな紅色をしている。雄しべの葯の黄色、濃い緑色の艶やかな葉など早春を彩っている。そして、やゞ半開き上の花は気品に満ち溢れ人々の眼を楽しませてくれる。この時期、花木が少ない中で最近は神社境内でよく見かけられるが、人家の庭先では園芸種に押されて見られなくなった。
ヤブツバキは、鳥媒花の仲間で鳥(メジロ、ヒヨドリ)に花粉を運んでもらっている。花の構造を良く観察すると、花びら一枚一枚と雄しべがすべて一体となっていることが分かる。受粉は、鳥が蜜を求めて来ることによるが花びらが分離していると、花びらと花びらの隙間から蜜を吸われ交配がままならない。そこで、花びらを一体化して鳥が花の上部からしか蜜が吸えないような構造になっている。
蜜を吸ったメジロ、ヒヨドリは嘴や頭部に黄色い花粉が付いて、他のヤブツバキの花と受粉が行われ、秋に大きな実(種)ができる。実は、直径2~3㎝の球形で熟すと割れて種子が出てくる。この種子が、鳥やネズミなど小動物によって運ばれ子孫を繋いでいく。
《ヤブツバキの花》
1枚目・・・花びら、雄しべが花の根元で合体している。雄しべの葯に黄色の花粉が見える。
2枚目・・・咲き終わると花弁は離れず、そのままポトリと落ちる。落ちた花を観察すると丸い穴がある。
3枚目・・・受粉が成功して子房が膨らみかけ、秋に種子となる。
《ヤブツバキの葉》・・・厚く艶やかな光沢がある。縁に細かいギザギザ(鋸歯)がある。
《ヤブツバキの実》
果皮は乾燥すると茶色になり三つに割れ、中に黒っぽい種が4~6個できる。種は油分をたくさん含んでいる。秋に乾燥させ、絞り上げるとツバキ油が採れる。かつては、食料油として利用され精進料理には欠かせない油であった。現代では頭髪用として人気が高い。又、ツバキ油の成分であるオレイン酸は活性酸素と結合せず、生活習慣病の予防・改善に効果があるという。
ツバキ油の生産高は東京都が第1位、長崎県が第2位でこの2都県で全国の95%を占めている。東京都伊豆諸島の大島には、300万本ものヤブツバキがあり、利島も大産地である。長崎県の五島列島には800万本のヤブツバキが自生しているという。
《ヤブツバキの幹・材》
樹皮は滑らかで明るい灰色をしている。現代では材は炭に利用される。
福井県の浜島貝塚から5500年前の縄文時代に作られたヤブツバキの材を利用した「斧の柄」と「髪を整えるクシ」が出土している。斧の柄は「狩り」に使用するため、ヤブツバキの材質の特徴を良く知り尽くしていたことなど高度の知識を持っていたことが分かる。又、「クシ」は作成技術、緻密さに驚かされるという。
参考資料
・渡辺一夫著 築地書館
イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか~樹木の個性と生き残り戦略~
・森林総合研究所HP 自然探訪