都立小宮公園で2回目の撮影会
若葉、青葉の濃淡の緑が織りなす都立小宮公園(八王子市暁町)。水辺があり、窪地があり、草地もある深い雑木林で、5月4日、「多摩の花ごよみ」プロジェクトチームの2回目の撮影会を開いた。総勢10人が参加した。このプロジェクトの中核である関根充さんと丹野雅之さん、原田義明さん(いずれも八王子市)がガイド役を買って出て、キンラン、ササバギンラン、マユミなど春の草や木について語り、野鳥のさえずりが響く園内の花々をカメラに収めた。
水が湧き生き物多い雑木林
小宮公園はJR八王子駅から北へ歩いて20分ほどの標高約160mの加住丘陵にある。園内の窪地から湧出する水は大谷川の水源であり、谷地川に注いだ後、八王子市小宮町と日野市との境付近で多摩川に流れ込んでいる。「東京の名湧水57選」に選定されている。流域には昭和40年(1965)ごろまで田んぼがあったという。湧水が流れ込んでいる園内の大谷弁天池は、江戸時代の天明年間の飢饉の頃に八王子千人同心頭だった荻原氏が流域で耕作していた農民を救うために掘ったと伝わる。
園内一帯のコナラやクヌギといった武蔵野を代表する雑木林は、薪炭林であり、農用林として長い間利用されていた二次林。今日では市民の憩いの場であり、草花や昆虫、野鳥が豊富に見られる。計画的に木を切って芽吹かせて森を若返らせる萌芽更新も行われており、更新年数によって異なる林相も分かる。湿地や草地など環境の違いが見て取れて、それぞれのエリアで多くの生き物が生息している。
飛翔するツバメや馬の足型に似て
公園入り口付近の草地で目に飛び込んできたのはセリバヒエンソウ(芹葉飛燕草=キンポウゲ科)だった。花の大きさは約2㎝で薄紫色。葉がセリに似ており、花の形は飛んでいるツバメに似ていることから名づけられた。小花を付けたマユミ(ニシキギ科)にカメラのレンズを向ける。多数の枝先にそれぞれ白い4枚の花びらが今にも咲きそうだ。「完全開花までたいそう時間がかかる木」と案内役の一人、原田さんは言う。材を弓に使っていたという。
樹間から差し込む光を受けて輝いていたのはウマノアシガタ(キンポウゲ科)。野原や土手などでも見られるが、ここで見ると、花びらの光沢が際立っている。黄色い花は直径2cmほど、花弁は5枚。花の形が馬のわらじに似ているから名付けられたというが、「馬のわらじって見たことがない」と参加者から声が上がった。この名前は初め、八重咲きのものに付けられた名だという。
明るい萌芽更新の林相
園路は木道や山道であり、ルートには「かわせみの小道」「こげらの小道」など野鳥や草花の名前が付いている。「ほおじろの小道」に入ると、原田さんは「この付近にオオタカが棲んでいる」といった。改めて周囲を見回す。コナラ、クヌギ(ブナ科)、コブシ(モクレン科)、キブシ(キブシ科)など、どれも背が高い。「どの木も光を求めて背が高くなる」と関根さん。それだけ長年、人の手が入らなかった証でもある。萌芽更新されているわけにも納得。
コナラの根本で光り輝く
この時季の小宮公園といえば、ワダソウ(ナデシコ科)とキンラン、ササバギンラン(ラン科)だろう。この日のお目当ての一つだった。行く先々で出迎えてくれたのはキンランだ。探すならコナラの木を見つけ、その根元にキンランがあるかも。コナラなどの根に着く菌を栄養にしているといわれるからだ。金色の鮮やかさは、林の中の小さい灯台のようでひときわ異彩を放っていた。高さ30㎝ほどのもの、50㎝ほどのものとあちこちで光り輝いていた。参加者のカメラの放列は当然だ。
その隣にはよく似た植物で、ササバギンランが寄り添うようにあった。こちらはキンランよりも全体が小ぶりで白い花をつけていた。
ワダソウ(ナデシコ科)は、どこにある? 原田さんは「実は、3週間ほど前が見ごろだった」と明かした。ワダソウは、長野県の和田峠で発見された植物で、春、茎頂に少数の小花を開き、茎の下部から中部にかけて閉鎖花をつける。花弁は5枚で白色、先は浅く2裂するそうだ。来季に期待しよう。ウラシマソウ(サトイモ科)も開花のピークが過ぎていた。毒々しくヘビの鎌首を思わせるカントウマムシグサ(サトイモ科)は大きく口を開けていた。
昆虫がふ化してにぎやか
他の木に比べて群を抜いて背丈が高いユーカリ(フトモモ科)が3本、天を突いていた。コアラの好物の葉が茂る。昭和61年(1986)の開園当初、多摩動物公園の草食動物に与える供給地の名残だ。隣接地のユーカリ園は閉鎖管理地になっている。ユーカリの仲間は600種以上あるが、多摩動物公園のコアラが食べるのは数種類だそうだ。
園路脇のエノキ(ニレ科)の葉を見て鳥肌が立った。一枝に付いた全部の若葉に突起状の実を載せていた。これはエノキトガリタマバエがエノキの葉に産卵して虫こぶになっているのだ。丹野さんは、虫こぶにルーペを当てた。そこに見えたのは小粒の黒点。卵だ。別の木のクモの巣では卵から孵化したばかりのクモの幼虫が数十匹うごめくのにも目を見張った。生きている森の多様性を見た思いがした。
この日に確認した木と野草
木の部(20種) | ベニバナトチノキ、コマユミ、ニシキギ、コナラ、カマツカ、マユミ、 ヤマツツジ、ミズキ、コゴメウツギ、ミツバウツギ、オニグルミ、 ヒメコウゾ、ウワミズザクラ(実)、ヤマブキ、ユーカリ(蕾)、 エノキ(虫こぶ=エノキトガリタマバエ)、クヌギ、コブシ、キブシ、 ヤマグワ |
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野草の部(17種) | キンラン、ササバギンラン、フタリシズカ、セリバヒエンソウ、 ホウチャクソウ、チゴユリ、ハンショウヅル、ウラシマソウ、 カントウマムシグサ、キランソウ、アメリカフウロ、ジシバリ、 ジュウニヒトエ、ムラサキケマン、アマドコロ、シャガ、ウマノアシガタ |
次回は、7月6日、東京・神奈川都県境の大垂水峠~小仏・城山で実施する。弁当持参。
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多摩の花ごよみ
E-mail:tama.hanagoyomi@gmail.com