取水の起源が室町時代と伝わる多摩川の堰~昭和用水堰

先のブログで、多摩川に設置されている主要な8基の堰のうち、河口から上流へ向かって、順に5つの堰(調布取水堰、ニヶ領宿河原堰、ニヶ領上河原堰、大丸用水堰、日野用水堰)の特色などについて触れてみました。

今回は、多摩川河口から数えると6基目となる昭和用水堰について述べてみたいと思います。

九ヶ村用水堰を前身とする昭和用水堰

九ヶ村(くかむら)用水堰は、九ヶ村用水へ多摩川の水を引くために設けられた取水堰です。

九ヶ村用水は、室町時代に開削が始まり、江戸時代の延宝元年~8年(1673~1680)に完成したと伝わる延長8㎞の農業用水です。拝島、田中、大神、宮沢、中神、築地(ついじ)、福島、郷地(現・昭島市域)の八ヶ村と、柴崎村(現・立川市域)の田畑を潤していました。取水口は、当初、熊川村(現・福生市域)の多摩川左岸に設けられていたとのことですが、江戸時代末から明治初期にかけて、下流域の拝島村(現・昭島市域)の多摩川左岸へ移動しています。

熊川村時代の堰や取水口の様子は明らかでないとのことですが、拝島村時代の取水口の跡が残っており、昭島市の歴史スポットの一つとなっています。この拝島村時代の九ヶ村用水取水口は、昭和48年(1973)まで使用されていました。

拝島村時代の九ヶ村用水取水口跡

昭和用水堰の誕生

昭和8年(1933)、拝島村時代の九ヶ村用水取水口と取水堰の下流域(約250m下流)に新たに取水口と取水堰が建造されました。一町ニヶ村用水取水口と今日につながる昭和用水堰の誕生です。
取水口が新たに九ヶ村用水取水口の下流域に設置された理由は、村山(昭和2年)・山口(昭和9年)貯水池の完成によって多摩川の水位が下がり、取水量が大幅に減少したことによるものです。

一町ニヶ村の名で呼ばれるようになったのは、九ヶ村が一町(立川町)とニヶ村(拝島村、昭和村)になったため、といわれています。市町村制の施行と合併により、柴崎村は立川町に含まれ、田中、大神、宮沢、中神、築地、福島、郷地の村々は合併によって昭和村となりました。新たな用水名は一町ニヶ村用水(立川用水、立川堀)。その後、昭和34年になって水田の減少により立川が離脱。用水名は昭和用水と変わります。

昭和用水という呼称は、昭和に入って誕生した昭和村(昭和3年制定)に由来するとか。

一町ニヶ村時代の堰の材質は蛇籠から木製に代わっていましたが、洪水対策等が困難となり、昭和30年(1955)にコンクリート製の堰に改築、さらに平成13年(2001)に改修が行われ、ハーフコーン型魚道が設置されました。それが今日の昭和用水堰です。取水口も、平成13年に一町ニヶ村時代のものから新たなものへ改築されています。

一町ニヶ村用水時代の取水に使われた樋管(クリックすると拡大)
今日の昭和用水の水門(取水口)

今日の昭和用水堰

今日の昭和用水堰は、JR青梅線拝島駅から歩いて30分ほどの場所にあります。堰の長さは地図上で約360m。多摩川河口から47.8㎞上流にあって、右岸が八王子市高月町、左岸は昭島市拝島町に位置しています。

多摩川を挟んで八王子市高月町と昭島市拝島町を結ぶ昭和用水堰

堰の構造は可動堰(起伏式、土砂吐き用)1門、魚道(ハーフコーン型)1門、そして長い固定堰によって構築されています。

左岸(向かって左側)から右岸へ向かって水門、可動堰、固定堰、魚道、固定堰が見えている。

昭和用水堰は、台風などによって上流から運ばれてくる土砂が蓄積しやすく、遡上するアユにとって最難関の堰といわれています。地元の漁業組合の方々は、アユの遡上時期に備えて魚道の土砂除去作業を行っているということです。

東京の水がめ建造と昭和への移行という時節を反映する昭和用水

昭和用水は日野用水と同じく、室町時代に開削が始まったと伝わる長い歴史をもつ農業用水です。

九ヶ村用水と呼ばれていた時代、多摩川左岸から豊かな水を得ていましたが、昭和に入って東京の水がめ、村山・山口貯水池へ大量の水が多摩川から導水され、多摩川中流域の水位が低下します。取水困難となった九ヶ村の人々は多摩川と秋川の合流点付近に新たな取水口をもとめ、水量を確保しました。
新たに取水口を求めたこの地には、かつて多摩川の両岸を結ぶ「滝の渡し」があったということです。

昭和用水と名称が変わりましたが、九ヶ村用水時代の多くの水路が保たれていて近年まで地域の田畑を潤してきました。
しかし、多摩川の他の農業用水と同様に、都市化の進行により水田が減少。本来の灌漑機能が薄れてきました。水路の荒廃を防ぎ身近な自然を守るために、今日では、地域住民による保全活動が進み、親水緑道が整備され、地域の人々の憩いの場となっています。

昭島市田中町の公園を流れる昭和用水

参考資料
 *国土交通省 京浜河川事務所資料
 *知っていますか 東京の農業用水 東京都産業労働局水産部
 *昭島市デジタルアーカイブズ
 *秋川漁業協同組合資料
 *地理院地図