福生市の「航空機騒音測定回数」(測定地:福生市熊川1571。横田基地誘導灯付近)によると、米軍横田基地の飛行回数は今年1月から9月まで1万1858回に及ぶ。その75%以上が7-19時に飛行し、19-22時は23%を占めている。最大騒音値は120デシベル。まさにジェット機直下の音であり、近くに落雷した音に匹敵する。電車のガード下の音が100デシベルというからこれを遥かに凌ぐ。測定した中で低い騒音値といっても103デシベルだ。
また「ふっさ市議会だより」10月25日号の横田基地対策特別委員会が6月12日から9月16日までに基地から受けた報告によると、基地内のコロナウイルス感染者は、9月2日までに累計で19人いた。6月16日にはCV-22オスプレイが部品を遺失、7月2日には降下訓練中に立川市内にパラシュートが落下した。7月7日にも青梅線牛浜駅西口駐輪場付近にフィン(足ヒレ)が落下した事故が起きていた。このほか奥多摩町や立川市内で空軍兵らの飲酒運転による交通事故もあった。こうした不祥事を日ごろ、耳にしていることから何気なく基地のフェンスの外から中を覗き込んでいる。
そんな中で青梅線を利用して半世紀になるが、拝島駅北口ロータリーの真正面に横たわる引き込み線を走る列車というか、貨車というか、その姿を一度も目にしたことがない。
狙い定めて足を運ぶこと、2度3度。沿線の人に聞けば、「毎日通るわよ」「週2回かな」「夕方、近所の幼い3人連れが必ず見に来るの。すっかり保安員の方と顔見知りになって互いに手を振りあって楽しんでいるのよ」と。
何を運んでいるんだ? 沿線でカメラを構えていた鉄ちゃんがいうには「ジェット燃料だよ、飛行機の。この引き込み線を通る専用貨物列車を米タン(べいたん)というんだ」と話してくれた。米軍専用のジェット燃料を積んだ12両から13両編成のタンク車が行き来しているんだと納得。運行管理はJR貨物八王子駅が行っている。そりゃ、見ないわけにはいくまい。『拝島駅前の顔だ』と一人納得して沿線を歩いた。
ジェット燃料を満載したタンク車は、米軍鶴見貯油施設に隣接するJR鶴見線安善駅から南武線を経由して、立川駅で東京発青梅行きが乗り入れるバイパス線を使って西立川駅で青梅線の本線に入るのだ。
拝島駅まで電気機関車に引かれた米タンは、拝島駅から横田基地専用引き込み線に入るが、この路線は電化されていないため、拝島駅でディーゼル機関車に替えて基地まで牽引するのだ。出会った鉄ちゃんがいうにはJR側が電化計画を米軍に持ち掛けたら、電気の火花がジェット燃料に引火する恐れがあると一蹴されたそうだ。待てよ? 拝島駅まで全線電化されているけど……。そうか、だから、今以て‟懐かしい路線”として残っているのか。
この日は、午前10時過ぎにディーゼル機関車が単機で拝島駅北口前の引き込み線横田1号踏切にやってきた。500mほど先の基地まで空になったタンク車を迎えに行くのだ。40分ほど後、基地ゲートが開いてタンク車を連結して戻ってきた。タンク車は火曜日と木曜日に各1往復するが、場合によっては日曜日を除いて運行することもあるそうだ。いずれも臨時ダイヤで運行される。安善駅からやってくるジェット燃料を満載したタンク車を撮影したいが、立冬が過ぎた今、日没後であり、叶えられそうにない。
線路に沿って歩いた。道路はレールから離れそうになると、路地があり、その先に踏切がある。ここを渡る。再び線路に近づくために路地に入ると、次の踏切が見えて、ここをまた渡る。ゲートまで6カ所の踏切があり、線路を縫うようにして進んだ。民家や3~4階建てのビルの間に敷かれたレールを踏切で立ち止まって見ると、小刻みに歪み、たわんでいた。
そんな光景を別の日も楽しみながら進むと、基地ゲート前に着いた。ここでは頑丈な鉄柵を設えており、金網越しにある横田7号踏切の先に機関車とタンク車が縦列していた。
横田基地は、米軍と航空自衛隊が使用している基地で、沖縄に次ぐ本土最大の米軍基地だ。軍人・軍属が約4000人、その家族約6000人が住み、日本人従業員も約2200人いるという。米軍司令部や第5空軍司令部を置いた、極東を防衛する主要拠点だ。その活動を航空機燃料の供給によって支え続けている基地専用引き込み線だが、レールのねじれや、たわみに滲むローカル線的なのどかさがある。基地自体が持つ戦争や紛争の色濃いイメージとのどかさは裏腹であり、戦争・紛争と平和は紙一重だと教えられた気がした。